翠文書


徹夜/1999年11月3日(水)/No.8

にカラオケしないかと言われて池袋に徹夜カ ラオケに行きました。徹夜カラオケなんて久しぶりです。楽しみでした。でも着 いてみると私を誘った友人はまだ着いておらず、聞いてみると彼は遅れてくるか らということでした。ちょっと眠くて軽く目をつぶっていたのですが、はっと起 きるとカラオケに来たはずなのですが、みんななんだか様子が変です。カラオケ もしないで冊子を見ながらひそひそとうち合わせをしています。メモに何か書き 付けている方もいました。何処かの建物の内部図の様なものでした。そのまま眠 る方もいましたが、大部分の方は打ち合わせが終わるとその後何かに憑かれたよ うに絶叫系の歌を合唱していました。あんな歌がカラオケに入っているのですね。 それとも誰かが持ってきて流していたのでしょうか?何か呪文の様なものを大勢 で唱えていました。運命とか黙示録とか使命とかいう言葉が聞き取れました。私 は「やばい」と思いましたが気が付くのがちょっと遅かった様です。

たしか朝8時か9時くらいまでは歌えるコースのはずでした。ところがリーダー とおぼしき人の合図でみんな防寒具を取り出して着込みだしたのです。私が何事 か分からず見ていると、中の一人が予備と思われる物を貸してくれ、「寒いから お前も着ておけ」と言われました。言われたとおりに防寒着を着ると、5時には またリーダーの合図で出発するのだそうです。私はもう逃げられないのだなとそ こで覚悟を決めました。

集団になって城のように高い建物の下へ連れて行かれました。実は時計を忘 れていったので何時なのかはよく分かりません。薄明かりの中地下街を右へ左へ と歩きました。何番出口からでたのかは覚えていません。暗闇の中ふとよく見る と同じような格好の人たちがぞろぞろ同じ方向を目指して歩いています。そのま ま歩いていくと大きな塔が前に見えます。そこには更に大勢の人々が虚ろな目を しながら石塔を目指して石段を上がっていました。昔、本で見たドルイド僧の様 な格好でした。門が開くまでその前で待つのだそうです。塔の係りの方が手際よ く待つ人々を並べていました。みんな整然と並んでいました。まだ朝も早いとい うのに長蛇の列が出来ています。なんでも部屋が4つくらいあって、私は一番下 の部屋に行くのだそうです。階級か何かで分けられているのでしょう。謁見か何 かあるのでしょうか。でも周りの人は冊子を読んだり眠ったりしているのですが、 何か取り憑かれている殺気の様な物があってあまり声をかけられるような雰囲気 ではありません。すると一緒に来た方が食べ物を分けてくれました。戦いの前に は何か軽く口にしておくべきなんだそうです。歴戦のベテランの様でした。通行 証になっているという冊子も分けてもらいました。これがないと入れないのだそ うです。そのまましゃがんで眠りました。寒さで何度目かに目をさました頃には 日もすっかり上がり昼近くになっていました。時計は無くても太陽の位置から考 えて10時か11時。午後ではなかったはずです。

係りの方の合図で並んでいる方々は立ち上がるとそのまま内門の前まで連れ て行かれました。みんな列を乱すことなく整然と歩いています。開門の時間まで もう少しなんだそうです。周りがそわそわと落ち着かない様子です。隣のベテラ ンの方が「昼すぎには石段を登りきったあたりで落ち合おう」と言いました。訳 も分からずうなずくと、なにやら私にお呪いの様な言葉をつぶやきました。「い い書物がみつかるといいな」とかそんな言葉でした。もしかしたら自分のために つぶやいたのかもしれません。するとその時係りの方が何事か叫びました。する と先ほどまで整然と並んでいた皆さんが恐ろしい勢いで門の中に突入していきま す。流れに流されるまま門の中に入ったのですが、そこは何かバザールの様な所 でした。色々な書物を売っている様です。どんどんと人が入ってくるので、私は 怖くなって奥に進みました。何か買わないと門から出るときにまずいのかもしれ ません。とりあえず怪しまれないように何冊か書物を買いました。ほんの薄い冊 子なのに1000円弱はします。でも言われたとおりのお金を払いました。大勢並ん でいるところもあるのですが、そこは怖くて近寄れませんでした。長く途中がく びれている部屋で、あっという間に人で埋まっていきます。なるべく出口近くに 居た方がいいかもしれません。人をかき分けながら奥へ向かいます。観察してい ると、どうやらもう出ても良いようです。冊子を抱えた人々がすごい勢いで出て いきます。どうやらあまりチェックはされていない様です。一か八かそのまま緊 張しながら出口へ向かいました。一方通行なのだそうです。係りの方が目を光ら せています。通行証と買った冊子を胸におしいだきながらうつむきつつ出口へ向 かいました。するとあっけなく外へ出ることが出来、このチャンスを逃さずに人 混みに紛れながらそのまま塔から降りました。見るとまだ入場するために大勢の 方が石畳の上に並んでいます。大きな教団なのでしょう。私は何事もなく外に出 ることが出来ました。

怖くなった私は待ち合わせ場所には行かずにそのまま街を離れました。冊子 は人目に付かないところで紙袋に包んで捨てました。何か夢の中の様な、足が空 を切るような感覚で、そのまま地下鉄に乗ると疲れからか眠ってしまい、気が付 くと自宅の近くでした。カラオケに誘ってくれた友達とは結局会わずじまいで、 未だに連絡を取っていません。半分記憶があいまいで、もしかしたら夢だったの かもしれないと考えると聞くわけにもいきません。消息を確かめるべきでしょう か。